1990年代までのキャリア論では、「計画的にキャリアを作っていく」ことが提唱されていました。自分が5年後、10年後にありたい姿を描き、それに向かって計画的に経験やスキルを蓄積していくことで人生の成功につながる、という考え方でした。
当時は、企業においても、3-5年の中期計画を策定し、それを着実に実行していくことが一般的でした。しかし、2000年代に入り、変化が激しく、将来の予測が困難なVUCAの時代になりました。企業でも、中期計画に縛られるより、環境変化に柔軟に対応していくことが重要な時代になりました。
そのような時代の変化に合ったキャリア理論が、米国スタンフォード大学教授のジョン・D・クルンボルツが、1999年に発表した「予期せぬ出来事を、キャリアの機会ととらえる考え方(計画的偶発性理論:プランド・ハップンスタンス・セオリー)」です。この計画的偶発性理論は、現代に合う考え方として、キャリアの専門家の間で、広く受け入れられています。
クランボルツ教授は、「未来は予測できないことが多いので、キャリアプランに縛られすぎる必要はないのではないか」という仮説を立てました。それを検証するため、成功したビジネスパーソン数百名のキャリア分析を行ったところ、「成功したキャリアの8割は偶発的なことによって決定される」ことがわかったのです。そして、「偶然の出来事」をチャンスや好機に変えるため、5つの心構えが必要だと提唱しました。
5つの心構えとは、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心です。まず「好奇心」については、いつも新しいことに興味や関心を持ち、勉強や出会いを豊富にしておくとチャンスがつかめるということです。学生時代はもちろんのこと、社会人になっても、たえず新しい学びの機会を模索していきましょう。
但し、いつも中途半端に関心が移りすぎるとよくないため、「持続性」も必要です。失敗に負けずに努力し続けることは、ある程度は大切です。
キャリアデザインにおいて、多くの日本人が特に意識すべきと思われるのが、3つめの「柔軟性」だと思います。状況の変化に応じて、こだわりを持ちすぎず、新しい視点を取り入れていきましょう。自分の信念・態度・行動を、環境に合わせて変えるのが、むしろ良いことなのです。若者の親の世代は、「この道一筋」を美徳として教えられてきたので、例えば「1つの仕事を長く続けるべき」とか「転職はよくないこと」と考える人もまだ多く存在します。しかし、これは時代に合わない価値観であることを認識しましょう。
4つめの「楽観性」も大事です。新しいチャンス(機会)は必ずあると、前向きに考えて、今やるべきことに注力しましょう。そして新しいチャンスが来たら、「きっと大丈夫」「何とかなるさ」という気持ちで取り組むのです。
そして最後の「冒険心(チャレンジ精神、リスクテーキング)」を持つことです。思い切って「一歩踏み出す」ことが、成功のカギなのです。
私自身や、私の周囲の人たちの経験でも、偶然の出会いがキャリアを左右する事例を多く見てきました。皆さんも、自分のこれまでの人生を振り返ると、偶然の出来事が、今につながっていることに気づくのではないでしょうか。