なぜ人は働かないといけないのでしょうか。ここでは、3つの視点から、考えます。
国民の義務の視点
まず、「国民の義務」の視点があります。日本国憲法では、日本国民に3つの義務を定めています。「①教育の義務」「②勤労の義務」「③納税の義務」の3つです。まず教育の義務は、「全ての親は、子どもに普通教育を受けさせる義務がある」ということです。特に中学校までは、義務教育として、無償で授業を受けられることになっています。
次の勤労の義務は、「全ての国民は、働く権利がある一方、その義務もある」ということです。国によって強制労働をさせられる訳ではありませんが、国から様々な社会保障を受けるためには、できるだけ仕事をしてくださいという意味です。もし仕事をしている人であれば、その人が困った時には、健康保険や失業給付など、国もいろいろな手助けをします。でも仕事もしないで、困ったときだけ国に頼るのは勘弁してね、ということです。
そして最後の納税の義務は、「全ての国民は、社会を維持するために、適切な税金を払う義務がある」ということです。その人の収入や仕事に応じて、税金を納めることが定められています。つまり、働ける人はできるだけ働いて、税金を納めることが、豊かな社会を守り、発展させていくために必要不可欠なのです。
生涯賃金の視点
次に、現実的な話として、生涯に得る合計賃金(生涯賃金)について確認しておきましょう。厚生労働省のデータでは、大卒男性(正社員、退職金を含む)の生涯賃金は、2億8600万円です。大卒女性は2億3600万円(同)です。現在のところ、女性は管理職や高度な専門職に就く割合が少ないため、男女の平均賃金には約5000万円の差があります。将来的には、この差は小さくなっていくことでしょう。
ここで知っておきたいのは、非正規社員の生涯賃金は1億5000万円、パートやアルバイトだと5400万円に過ぎないということです。会社員の場合、正社員と非正規社員とで、収入に大きな差があります。若い時期には、正社員と非正規社員の賃金差は小さいですが、長期的には大きな差がつくことを認識しておきましょう。
ヒトの欲求の視点
最後に、「ヒトの欲求」の視点です。別項目で、マズローの「欲求5段階説」を説明しました。人の欲求には、低い方から、①生理的欲求、②安全の欲求、③所属と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求の5つのレベルがあります。
現代社会においては、自分が働かなくても、①生理的欲求、②安全の欲求は、誰かに助けてもらえば、満たされるのかもしれません。従って、ヒトが働くのは、③所属と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求、の3つを満たすためと考えられます。
「自己実現」とは、「なりたい自分になる」ということです。どんなところに住み、どのような人と関わって生活をし、どんな仕事をして自立するのか。「なりたい自分」は、会社の偉い人かもしれないし、お金持ちかもしれないし、世界を飛び回ることかもしれないし、趣味に生きることかもしれません。人それぞれです。
一人一人が「なりたい自分になる」ために働くのです。そして、「なりたい自分」を考えることによって、「やりたい仕事」を考えることができるようになるのです。
ワーク:私はなぜ働くのか?
この問いについて、自分で少し考えてください。(可能であれば、周囲の友人と、意見交換してください。)
回答例)お金がもらえるから、働かないと生きられないから、楽しいから、誰かの役に立ってうれしいから、偉くなれるから、家庭をもちたいから、、、
何が正しいということはありません。本日以降、自分がなぜ働くのかについて、考え始めてみましょう。