私は学生から「ブラック企業の見分け方を教えてください」とよく聞かれます。私の回答は、「売上100億円、従業員500人規模の会社であれば、大きな問題はないでしょう」です。この規模の企業は、一般的な労働法規を順守していると考えられるためです。
例えば、長時間労働が慢性化しているとか、残業代を払わないとか、無理に退社を迫るような企業は、社員や関係者から各地域の労働基準監督署に連絡がいき、調査・指導・是正勧告の対象となります。悪質な場合や何度も指導を重ねられた場合は、企業名がネット上で公開されます。社名が公開されると、取引や採用に悪影響になるため、それなりの規模の企業であれば、法律を守っています。
ただし、セクハラ・パワハラについては、あいまいな部分も多いため、外部からは判断が難しいこともあります。一般的には、売上100億円規模の企業であれば、ハラスメントについての社員研修を実施しているはずです。また、何か困ったときの相談窓口として、社内または外部の専門機関を用意している企業がほとんどでしょう。
売上100億円未満でも、社内研修や相談窓口がある企業は数多く存在します。私は企業研修講師もしており、売上はそれほど大きくなくても、ハラスメント研修や管理職研修をきちんと実施している企業をたくさん知っています。
いずれにしても、社内の制度は外部からはわかりにくいので、OGOG訪問などで、若手社員に本音の話を聞く場があると安心です。そのような場がなければ、人事部に直接聞いても構いません。そこで納得した回答が得られない企業には、初めから入社しない方が安心でしょう。
以上は、あきらかな法律違反やハラスメントについてですが、「何をもってブラック企業と判断するかは、その人に価値観による」ということを最後に説明します。
人気のある業界、例えば、テレビ局、新聞社、広告代理店、コンサルティング会社の多くは、20世紀ほどではないとしても、かなりの長時間労働です。面白いテレビ番組を作る、特ダネ記事を書く、人気の出るCMを作る、クライアントに役立つ市場分析をする、などの仕事はやりがいがあり、成長実感があるので、多くの社員は納得して働いています。
一方、最もホワイトだと思われる公務員にも例外があります。国家公務員の上級職(霞が関のエリート官僚)は、「国家を背負う」というやりがいがあり、かつては花形の仕事でした。しかし、国会対策などで超長時間労働のため、若手の離職率が上昇しています。小中学校の教員も、長時間労働で気苦労が多く、人気が低下しています。そのため、倍率が下がり、教育の質の低下が懸念されています。
また、最近は多くの企業がホワイトになりすぎ、若手社員が「ここにいると成長できない」と感じて離職するケースも増えています。企業のマネジメントとしては悩ましいところです。つまるところ、自分がやりがいを感じられる仕事であれば、多少の長時間労働は、気にならないかもしれません。