従来の日本企業は、「男性中心のマネジメント方針」でした。これは、前章で説明した「人口ボーナス期」には経済発展しやすい働き方として効率的でした。1950年代から80年代には、「なるべく同じ条件の人(新卒入社の男性)を長期雇用し、長時間労働させる」ことが高度成長を支えたのです。
しかし、2000年以降の日本は、「人口オーナス期」に入っています。働く世代の人口が減少していく社会は、労働力不足になります。そのため、女性、シニア、中途入社、外国人、障がいのある人などが働きやすい環境を整え、「なるべく多様な人材が、短時間で成果を出す」ことが効率的になります。つまり、「多様な人材を活かす、付加価値の高いビジネスモデル」へ転換しなければ、国家も企業も生き残れないわけです。
経済産業省は、ダイバーシティ(多様性)経営のメリットとして、3点を挙げています。
- イノベーション: 似たようなバックグラウンドの男性だけで議論するよりも、多様な人材の知識・経験・価値観を持ち寄ることで、新しい発想が生まれ、創造性や効率性が高まります。
- 外部評価の向上: 多様な人材の活用とその成果により、顧客・市場からの評価が高まります。優秀な人材の採用や、株式市場での評価(株価)にもプラスの影響があります。
- 職場内の効果: 多様な人たちが一緒に働くことで、従業員のモチベーションが向上したり、職場環境が改善したり、離職率が低下したりというメリットがあります。
このようなダイバーシティ経営のメリットを引き出すには、管理者層が、「多様な人材の育成のポイント」を理解する必要があります。私は企業のマネジャー向けダイバーシティ研修で、次のような質問をします。
質問「あなたは野菜農家です。畑ではキュウリ、トマト、ナス、ピーマンを育成しています。どのように育てますか?」
回答は、「それぞれの野菜に適した方法で育てる」です。これは、過去の日本の職場は、キュウリだけを育てていたが、今後は、多様な野菜を育てる必要があるという例えです。キュウリは、新卒男性社員のイメージです。キュウリだけなら、同じタイミングで日光・水・肥料・農薬を与えれば、同じように育ちました。みんながキュウリになりたいので、画一的に研修をして、OJTで教えれば、それなりに成長しました。
一方、トマト、ナス、ピーマンは、例えば、女性社員、中途入社社員、外国人社員のイメージです。そもそも、各自が「将来なりたい姿」が異なります。日光・水・肥料などの量やタイミングもそれぞれ違います。マネジャーは、個別に対話し、それぞれに適した育成方法を考える必要があります。これは正直なところ「面倒くさい」のですが、ダイバーシティ経営のメリットを引き出すためには「不可欠」なのです。